辺りは真っ白だった。上も下も右も左も真っ白で、足が地に着いているのかも分からない、そんな世界だった。足下には影すらなかった。声は響かなかった。それからは、この世界が無であることを理解した。理解できる頭はあった。自分以外の何も存在しない世界であったから、そのうち自分の存在が有るのか無いのかも分からなくなるくらいだった。
 出口はどこにもない。とにかく何もない。が、これが夢であることに気づくのに、そう時間はかからなかった。しかし、どうしようもないのも確かだった。早く目を覚ましたいと思っても、目を覚ます方法が分からなかった。そうしては不安になった。いつか覚める夢だ――では、いつ覚めるのだろう?何も分からない。何故ってこの世界は無であるからだ。考える要素がどこにもない、そんな世界であるからだ。
 ふと、は白の中に光を感じた。眩しいと思った。遠くのところで、眩い光が輝いている。周りは白。輝かす物など何もない。けれど、光は輝いていたのだ。心なしか、自分を呼ぶ声さえ聞こえる。
 は走った。その光が自分の上で輝いているのか下で輝いているのか、はたまた左で輝いているのか右で輝いているのかも分からなかった。けれどは走った。何故って、その声が自分を呼んでいたからだ。地上で月を追い掛けるように、光のもとへは辿り着けない。けれどは走った。何故って、――何故?



、――?」
はかけられた声にゆっくりと瞼を開けた。視界一杯に金髪が広がる。エドワードがの顔を覗き込むように見ていた。エドワードはどこか心配顔だった。
「眠いのか?」
「…エド、ワード?」
「寝てたなら悪いけど、寝るならベッドにしとけ。風邪ひく」
すっとエドワードは身を退く。は広がった視界を確認しよう顔を上げた。部屋には電気がつけられていて、カーテンの隙間から見える外は既に真っ暗だ――そっか、私、寝てたのか。
 は、エドワードがマグカップを左手に、右に手にした資料を眺めているのをぼんやりと見つめた。エドワードは軽く資料に目を通すと、の視線に気づいてマグカップを少しだけ持ち上げた。
「コーヒー、飲みたいのか?」
「…ううん、大丈夫」
「寝なくていいのか?」
「それ、エドだってそうだよ」
は苦笑した。の記憶に間違いがなければ、エドワードはここ三日ベッドで確かな睡眠をとっていないはずだ。
 エドワードもにつられて苦笑いをして、テーブルにことりとマグカップを置いた。
「やっぱ、こういうのは直ぐに片づけたいしな。一日も早くもとに戻りたいし」
「…うん、でも、大切だよ、休息も」
、疲れてるのか?」
エドワードがまた心配顔になる。自分のほうが疲れてるのに、いつも自分やアルフォンスを先に優先するエドワード。彼の心配顔を増やしているのは、自分の所為かもしれないと、は少し反省した。

「夢をね、」
は持っていたマグカップを見つめながら、それを少しだけ手前に傾けた。エドワードが煎れてくれたコーヒーは、眠気覚ましのために少しだけ苦い。うん?と返事をして、エドワードは耳を傾けてくれた。
「夢をね、見てたの。何にもない世界の夢。上も下も右も左も真っ白で、影もないし声も響かない、そんな世界。私、そこに一人で立ってた」
「…扉は?」
「真理じゃなくて夢だもん、それはないよ」
深刻そうな顔を見せたエドワードに、は苦笑いした。
 それで、その続きは。と話を促してくるエドワード。も思い出したように「あ、うん」と頷いた。
「それでね、凄く眩しい光を感じたの。勿論影もなかったから上下左右も分からなかったし、辺りは真っ白だったんだけどね、光が輝いてるのが分かったの。誰かに呼ばれてる気がして、私、何でかわからないけどその光を目指して走ってた。声がそこから聞こえてるって確証もないのにね、でも呼ばれてるから行かなくちゃって――エドが私のこと起こそうとしてたからかな」
夢って外からの刺激も影響するらしいし、とは付け足した。そうだとしても、とても助かった気がする。あの真っ白で何も無い世界は、例え夢だとしても怖いものだった。
「心配しなくたって」
エドワードは言った。今度はが耳を傾ける番だった。うん?と返事をして、まるでさっきのエドワードと同じことをしている。勿論、本人は気付いていないのだけれど。
が何処にいたって、オレが引っ張り出して、隣に立たせてやるよ。夢の世界からだって、連れ戻してきてやる」
子どもみたいに、いや、実際に子どもなのだけれど、確実にそう出来るとはいえない言葉をエドワードは自信満々に並べる。だけど、はエドワードならそうしてくれるんじゃないだろうかと、何故かそう思えた。だって、今だって引っ張り上げてくれたじゃないか。



眩しいの中に飛び込んで



その先に見えるのはきっと君だから。










短くなってしまいましたが、私的にはこれ以上この甘さには耐えられません…!
企画参加させていただきありがとうございました!
2006・12・25


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