男がぽつりと呟いた。「死んでるのかと、思った」

「失礼ねえ。それとも死んでいるくらい綺麗だと言うの？」
「どこの褒め方だそりゃ・・・でもまあそんなふうに見えるけど」

　むくりとまだ咲く花畑から起き上がった。確かこいつの固有名詞は、たまたま同じ隊だったから、いや、女の攘夷志士が珍しかったから覚えていた。けれどそれを本人に言うと少なからず怒る。確かに、喧嘩・・・違う、攘夷がしたいという意思があれば性別は関係ない、が、女は男より弱い。それがもし科学者と女武士だったら女武士かもしれないが、男武士と女武士だったらほとんどの者が男武士が勝つと言う。それは俺も、だ。

「それにしてもどうして天人なんて来るのかしら・・・自分の星で昼寝しててもらいたいものよ」
「全くだ。もしそれに甘味物があれば俺は最高だけどな」
「・・・じゃああなたは天人の仲間入りしなさいよ」

　と、呆れた声を出す。
　確かは親を天人に殺されたと言っていた。今から数年前に突如現れた天人、それは鎖国をしていた俺ら日本人に取って予想もしてなかった相手だ。外国人ではない、宇宙人。そんな馬鹿なと噂を聞いた奴らは笑って過ごしていたが、次第に笑えない事となった。
　圧倒的な強さ、違い。武器からして違う、俺らが振っていた木刀真剣では歯が立たないとまで言われた。奴らが円柱で中が空洞な武器のトリガーを引くとそれだけで当たり所が悪いと人は死ぬ、しかも弓とは違いかなりの長距離でも威力はそう劣らない。

「全てをさあ、消せたら良いのに」
「物騒だなそれ。」
「まあねえ・・・でも人間も天人もさゼロにしてさ」
「おいおいしたらどうするんだよ」
「そしたらねここに動物が来て、ここに花を埋めるんだ」

　立ち上がって「ここだよ」と両手を広げて回る。月明かりに照らされて彼女の全身が目に映る。足を、怪我しているようだ。「それでね、」

「ここに花が咲いたら、種が出来て、それをまた埋めにいくんだ」
「へえ・・・」
「で、日本中、世界中が花いっぱいになる」
「・・・・・・で？」
「おしまい」

　ぼすんと音を立てて花に倒れこむ。月の明かりがあるとは言え、暗くて顔はよく見えないが心なしか笑っている気がする。
　すると、下から「坂田さんもどう？」と一緒に寝ろというのか、花の咲いた場所をどんどんと叩いた。

「おいおい、花いっぱい計画を考えていた奴がなに花の成長を止めてるんだよ」
「いいじゃない。今度、きっと誰かがここに種を埋めるわ」

「それに花いっぱい計画って何？」は本当に面白そうに笑う。俺はその顔を、ああ明日になればその笑顔はなくなり天人を惜しげもなく殺す顔となるのかと冷静に思った。
　とりあえず言われるがままに座った。がに着物の背の布を引っ張られたのでそのまま寝っ転がる事となった。暖かそうに見えた花は夜の風に吹かれているせいか、ひんやりとする。

「なあ、。お前なんで戦ってるんだ？」
「親の為。忘れるの早いね」
「・・・そか」

　今更何を聞いたのだろうか。こんな事、こいつと初めて会ったときから知っていた。女が入ることに反対した高杉が、聞いたのだ。するとためらいもせず、強い目を更に強め、いや怨念のような目の光を出しながら親のことを話し出した。たがその目を見た桂や坂本がやはり止めておいたほうがと案を出そうとしたところ、反対していた高杉が賛成派に回ったことで入ることとなった。そういえば、あの目は高杉と同じ目だった。何か怨んでいるようで、悔やんでいるようで、獲物を探している目。だが俺はそんな目をしたが好きではなかった。
　同族嫌悪だ。

「なあ、お前本当に親の為か？」
「・・・何、言ってるのそれ以外無いし」
「・・・・・別に天人何人殺しても親は報われねえんだよ」
「そんな事分かっている。私はただ天人が嫌いなだけ」
「・・・じゃあ俺らの殺した天人の家族も、いつか俺らを殺しに来るな」

　ふて腐れたように言うと、がいきなり立ち上がった

「な、んでそんな事いうの？！あなた攘夷志士のくせにそっちの肩を持つのね！」
「はあ？何言ってるんだよ。別に肩を持ったわけじゃねえ、ただの意見だっつの」
「だって・・・だってそしたら私もう殺せないじゃない！！」
「・・・」
「相手に家族がいると思えば情が出る！！だったら─」
「お前は、そんな勇気無しに今までやってきたのか？」

　俺がの目を見ると、は目を逸らさず俺を真っ直ぐと見返した。
（ああ、そうだこの目だ）
　立ち上がったに合わせて俺も立ち上がる。女にしては長身らしいだが俺と比べれば小さい。自然と見下す位置になった。

「お前甘えよ。それとも何？天人には家族いねえ奴らだと？んな訳ねえだろ、親がいて子がいて、もしかしたら孫もいるかもしんねえんだ」
「・・・そんなこと、言わないでよ」
「分かってない訳じゃねえだろ？考えたくなかっただけだろ？自分みたいな馬鹿が襲い掛かってくるのが嫌だったんだろ？」

　の小さな肩は揺れた。泣いているのだろか。（なぜ？）なんで泣いているんだ？今まで死んで逝った天人に対してか？それともその家族にか？自身の親にか？いや、
　自分自身にか？

「そんな邪魔な感情捨てろ。お前は親の為にっつってここ来たんだ。だろ？」
「ええ・・・」
「なら殺すことだけ考えてろ。生かして返すな。生かしたら俺らが殺される」

　それから俺は泣いているだろうを置いてさっさと拠点へと戻った。

花に囲まれて眠るのは
君の泣いているその姿を俺が殺していいですかとか思ったりする俺は、異常者だろうか