爆発する音、銃声の音、人々の悲鳴。どれも彼女には不釣合いなようでそうでないような光景だった。 性格は強気で活発。言葉遣いはお姫様らしからぬ言葉だし、服装もお姫様が着るようなワンピースなどではなく、男が着るようなズボンを好んだ。もともとお姫様にはなれないタイプらしい。彼女――はボンゴレファミリーではなく、日本から来たお姫様だった。今回、俺に言い渡された仕事は彼女を絶対守ること。何故、と聞かなかったのは聞いても意味がないから。俺は無言で彼女の護衛を引き受けた。 「なー、お前名前はー?」 てっきりの口から出てくるのは「お名前はなんでございますの?」という上品な口調かと思っていた。だが現実はあっさりとその想像を破り、俺を驚かした。姫たるものお前、などという言葉など使わないだろうと思っていた俺は少し肩の力を抜く。 「リボーンだ」 「は?リボン?女の子みたいな名前だなぁ、お前」 「リボーンだ。耳遠いのか?それとも馬鹿なのか?」 「なっ、ば、馬鹿ってなんだよ!ちょっと聞き間違えただけだろ!」 ぽかぽかと俺の胸を叩くは姫というよりただの子供だった。歳は17らしい。髪はその言葉に似合わずストレートロングで艶のある黒だった。なんだ、髪は結構手入れしてるのか、と思ったそのときだった。 「あー、暑い。カツラ脱いじゃえ」 すぽ、という音を出しては自分の髪をとった。やはり現実は俺の想像を破るのが好きらしい。 はカツラを持っていたバッグの中に突っ込む。そのまま彼女は自分が着ているドレスに手をかけ、慣れた手つきで脱いでいった。下にはもちろん服を着ているのだろう。俺は黙ってその様子を見た。 「…なんだ、驚かねえんだ」 「大体予想は出来る。…ここがお前の部屋だ」 「ふうん、すごいな。…っと、さんきゅ」 はドアノブに手をかけ、じゃあまたあとでなと言って部屋の中に入っていった。ばたんとドアが閉じる前に俺も部屋に入り込む。はびっくりした様子で少し大きな声で叫んだ。 「なっ、なんでリボーンが部屋に入るんだよ!?」 「しょうがねえだろ、ぜってぇ目を離すなって命令されてんだよ」 「……着替えのときも、か?」 「別に見られようが構わないだろ。胸も小さいし」 「テメッ、いつ私の胸を見た!」 ばっと自分の胸を隠すとは俺を睨んだ。まるで吼える犬だな、と俺は見下して鼻で笑った。そうすれば更に怒ることは目に見えていたのに俺はそうした。彼女の怒る姿を見たかったのだろうか。は案の定、眉を吊り上げると俺に枕を投げつけた。枕は俺の顔に当たることなく綺麗に掃除された床の上へ落ちる。 「見てねえよ。はったりだ」 「…!?」 「言い返すってことは本当に小さいんだな」 「……もういい!」 フンッとは荒々しく息を吐くとシャワールームへと足を向けた。俺も一緒についていく。―今回のリクエストで湯船もあるらしい。シャワールームというより風呂場だ。―さすがに風呂場まで誘拐に来る奴はいないか、と思ったが油断はできない。というのが一つの理由だが、俺はのことをもっと知りたくなったというのが二つ目の理由である。 「風呂場まで来るつもりかよ!?」 「安心しろ、さすがにそこまでしねえよ。外で見張るだけだ、中には入らない」 「覗くんじゃねえぞチビ!」 お前より高いと一言言い放ったがは何も言い返さず、代わりに風呂場のドアをばたんと乱暴にしめた。やれやれ、困ったお姫様だ。シャー、という音が聞こえる。それと同時に鼻歌も聞こえた。かすかに聞こえるメロディに俺は身を任せる。日本にある曲なのか、イタリアにある曲なのか、俺には分からなかったが綺麗な曲だった。いつかの声でこの曲が聞きたい。そう思っていたときだった。 「うわあああ!リ、リボーン!」 切羽詰ったような、恐怖で裏返ったような声で俺を呼ぶの声が風呂場から聞こえてきたのだ。 俺は急いで風呂場に飛び込む。そこにはぐったりとして動かないと真っ黒な装束を身にまとっている男がいた。風呂場になんで窓なんかつけてやがんだ、ダメツナめ。チッ、と舌打ちをして俺は窓から逃げていった男を追いかける。この俺からみてもかなり速い。どこのファミリーだ、と頭を張り巡らしていると男が立ち止まりこちらを振り返った。 「どこのファミリーだ。ボンゴレに手ェ出すとはいい度胸じゃねえか」 銃を取り出し、目の前の男に照準を合わす。だが男は卑怯にも気絶しているを盾にした。相当強く刺激を与えられたせいかはピクリとも動かない。俺はまた舌打ちをすると銃を下ろした。それをチャンスと思ったのか男が合図をすると影からかなりの人数の奴が出てきた。五…十…二十…おそらく三十人近く。 「抵抗すればこいつを殺す」 ぐっ、との頭に鈍く光る銃が押し付けられる。それと同時に俺に向かって一斉射撃の合図が送られた。 三十の弾が一気に俺に向かってくる。俺は一気に地面をけり、近くにあった木に飛び移った。を盾にしている奴はキョロキョロと見回して俺を探しているようだ。しめた、と一気に木から飛び降りそいつに飛びかかろうとする。 だが、チュンッという音とともに肩に激痛が走り俺は無様にも姿をさらけ出す形になってしまった。 「っつ…」 どうやら貫通しているようだ。肩は幸い利き腕のほうではない。俺はギロリと目の前で笑っている男を睨んだ。 「無様だな、たかが一人の女に何を躊躇っている。ボンゴレのヒットマンよ。」 「そいつは今回護衛している大切な女だからな」 殺すわけにはいかねえんだよ。と、俺はドンッと銃を空に打つ。刹那、近くで爆発音がした。男はそれに驚き後ろを振り返る。俺はその隙に男の頭に銃をおとした。ガンッという音とともに男がばたりと倒れる。俺は上着を脱ぎ、裸のままでいるにかぶせた。 「リボーン!大丈夫か!?」 「遅いんだよダメツナ」 「ボス、だろリボーン。様は?」 「そこでおねんねしてるぜ」 「…分かった」 肩を押さえている俺を見てツナは救護班を呼んだ。一分もしないうちに到着した救護班は、俺とを担架に乗せて運ぶ。爆発と銃声と火薬のにおいと、人々の悲鳴。どれも彼女には不釣合いで、どれも彼女には似合いそうな気がした。まだ目を覚まさないお姫様は一体どんな夢を見ているのだろうか。 それから数日後、ようやく傷が塞がった日にが俺を訪ねてきた。手には花束がある。俺はそんなもの貰っても世話出来ない、と顔をしかめたがは無理矢理俺に押し付けた。「ごめん」と何度も謝りながら。 「もういいつってんだろ」 「で、でも私を助けるために…銃に打たれたって」 「日常茶飯事だ。それに勘違いすんな、俺がお前を助けたのは命令だからだ」 「命令でも助けてくれたことにはかわりないよ」 だから、ごめん。そういって悲しそうな顔をした。俺はぼりぼりと頭をかいて花束を無理矢理奪う。半ば泣きかけの彼女は驚いて俺を見上げた。花びらがひとつ宙に舞う。 「これは受け取っておくぜお姫様」 「……ばか」 お姫様を守るナイト 貴方の不器用な優しさがうれしかった 全てによる祝福を 様へ 2006.12/09 瀬音えいる |