「もう終わりにしようね」
大きな夕日を背中に背負った銀ちゃんの表情は読み取れない。
「さよなら。銀ちゃんのこと、大好きでした…ううん、愛してた」
究極の片思いの方がどれほどよかっただろうか。
独りよがりの恋がこれほど羨ましかったことはない。
私も泡になって消えてしまいたかった。
人魚姫の恋に憧れる
本当に少しの縁だった。私の家は古くから伝わる老舗の薬屋。
最近、ライバル店のスパイに狙われているのではないかという心配から父が万事屋を呼んだ。
そこから始まったひそやかな、とてもひそやかな恋。
ただ私が勝手に始めて勝手に終わらせただけだった。馬鹿な女だと笑われてもいい。それでも私は幸せだった。確実に、この身で感じていたのだから。
「、俺も本気で愛してたぜ」
ああなんて残酷な人。そうやって、行くなと言わないで呼び止めるやり方で私を試す。
最初で最後の愛してるという言葉を目の前に、私は顔を上げる理由も見つからない。
ただただ真っ赤に照らす夕日が私の目には眩しすぎて、涙がぼろぼろと零れてくる。
親が決めた結婚に私は逆らえない。何度も何度も「結婚なんてしない」と口にしようとしたけど、出来なかった。
私の銀ちゃんへの想いはそれまでだったということだ。
きっとこれからあなたは誰かを愛して、私はあなたを許さないのだろう。
海のそこでそっと泡になって溶けた人魚姫が羨ましい。
「、俺はお前を愛してる…それだけじゃダメなのか?」
相変わらず表情が見えない銀さんを目の前に、心臓の音だけがうるさく響く。うまく口が開かない。言葉にならない。
「それだけで十分だ」と言いたいのに言えない私の弱さにうんざりする。
「じゃあ、俺といつまでも…たとえどうなっても、一緒にいたいか?」
はっとなって顔を上げた。ゆっくりと近づいてくる銀さんをずっと見つめていたら、段々と顔がはっきりと見えてきた。
ああ、やっぱり私はこの人を愛していると、そう思ったんだ。
ゆっくりと一度だけ首を振ると、強く抱きしめられた。そしていつもの何かを企んでいるかわからない、あの顔で銀さんは笑った。
「俺は万事屋。それはが一番よく、わかってるだろ?」
とくん、と胸が鳴った。これから始まる2人の物語を想像して、私は思わず銀ちゃんにしか見せない笑みを零しながら私から歩み寄った。
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全てによる祝福を...さまへ献上
背中を押してくれたのは、そう、他でもない…あなたでした
15:人魚姫の恋に憧れる
(0701XX)