正装した彼は戦場に赴くという。決して女などが入ってはならない激戦。









「やだいかないで」
わたしは咄嗟に、立ち去ろうとする彼の後ろから腕をつかんだ。
そのとききっと、リボーンは少し困った顔をしたのだろう。
いつも私はわがままを押し付けて、彼の眉間のしわを深くしてきた。そんな見慣れた困り顔。
「俺が強いことなんかとうに知ってるだろ、いいから腕はなせよ」
いつもなら無言であたしなんかふりはらうのに。今日はよくしゃべってくれるのね。
饒舌になるほどに、きっと不安がつのってる。
「こわいの?」
そのストレートな質問に、答えはなかった。けれど代わりに、リボーンの腕に入ってた力が小さく抜ける。
私はぱっと手を離した、リボーンはこっちを向いた。ぴたりと目線が合う。
その表情はさっきとはうって変わっていた。眉間のしわはいっそう深くなった。
そこには普段の強気な自己中の目も、普段の真一文字に結ばれた、しっとりした唇も、むだがない輪郭もなくて、ぜんぶぜんぶぜんぶ悲しさに満ちていた。
無言の空間。だけどそれらは重くない。まとう透明はすべてリボーンの訴えをのせていた。
それを押して侵入してきた窓からの太い突風。びゅううと私の髪もリボーンの帽子も巻き上げる。
だらしなくしていたカーテンが瞬間的にはたはたと揺らめき、やがてまただらしなく戻る。
するとカーテンに隙間ができた。一度瞬きをしたら、もうすでにリボーンの顔の半分が燃えるような夕日の橙に侵されていた。
なんと美しいのだろう。思わず息を呑む。

静寂が切れて彼が私の名前を呼ぶ。ひとつひとつ大切に言葉を発する。
「リボーン」
私も名前を呼ぶ。彼が呼んだ優しさに答えられるように精一杯の愛を込めた。






そのときまた、突風が吹き上げる。ふたたびだらしないカーテンが舞い上がる。
その影が二人を隠し、やわらかさをお互いに確かめ合う。エバミルクのような、甘さのないキス。







カーテンキス
いつも甘くなかったあなたのキスだいすきよ忘れないから、きっと生きて戻って