別々の高校を行くと決めた時、一護と離れる事に不安がなかった訳じゃなかった。
だけど一護となら離れても大丈夫だと思いたかった。
好きと言った時、照れて横を向く仕草だとか、怒った時に出来る眉間の皺や、
去年の夏にした初めてのキスを私は信じていたかった。


鳴らない携帯、隣に一護のいない帰り道。
偶然見てしまった黒髪の女の子と二人で歩く一護の姿。


色んな感情が押し寄せて来て、私はそこから動けなかった。












は教えてくれない













「好きなんだ」


そう隣のクラスの男子に告白されたのはあの日から二週間が経った雨の日の放課後。


「・・・私彼氏いるよ」
「うん知ってる。黒崎だろ。空座第一高の」
「じゃなんで」
「最近上手くいってないって聞いて」


誰が言ったの。まぁ間違ってないけど。


「考えておいて。・・・じゃオレ帰るから」
「・・・わかった」


本当ならすぐにでも断るべきだったのだけど、それが出来なかったのは心が揺れたからだろう。
あの時見た一護と一緒にいたコはもしかしたらただの同級生かもしれない。
でも私が声を掛けれなかったのは、浮気を疑ったからじゃなくて、
隣にいたのが私じゃなくて、違う別のコだった事がショックだったから。
一護からの連絡がなくなって、一護と会えなくなって、そして見てしまった光景。


一護の世界に私はもういないのかもしれない。


「・・・帰るか私も」


傘を差して学校を出た。傘に落ちる雨の音がうるさい。


「・・・名前?」


後ろから名前を呼ばれ振り向いた。そこにいたのは中学でも一緒だった竜貴が傘を差して立っていた。


「竜貴?どうしてココに?久しぶりー!」
「今日この高校で練習試合があるんだよ。空手部の。一護に聞いてない?」
「え・・・一護に?」
「今日織姫達と応援に来るらしいんだよ。来なくていいって言ったんだけど」
「一護来るの・・・?」
「聞いてないの?名前の学校だって言ったら、あいつ来ないって言ってたのに行くって言い出してさ。
だから連絡してると思ったんだけど」


雨の音と竜貴の言葉が頭の中でぐるぐる回った。
一護が来る・・・?


「竜貴ちゃん!」


校門の傍から織姫の声がして、我に返った。見ると嬉しそうに竜貴の傍に掛けて来る織姫の姿があった。
その後ろには数人の生徒の姿と一護がいた。


二週間ぶりに見る一護の姿に愛しさがこみ上げてきて涙が出そうになった。
一護の姿を見て、あぁ、やっぱり私は一護が好きなんだと実感する。


「一護・・・」


一護に掛け寄ろうとして、私はある事に気付き、足を止めた。
一護の隣には二週間前に見掛けた黒髪のコが当たり前の様に立っていたから。





眩暈がした。





「・・・私用事思い出したから帰るね」
「え?ちょ名前?!」


竜貴や織姫にバイバイと言って私は走って校門から出た。
一護の隣を通り過ぎたけど、一護の顔を見ていない。
一護はどう思ったんだろう。久しぶりに私に会って。











「名前・・・!」











後ろから腕を掴まれて、私は振り向いた。久しぶりに呼ばれた一護の声。


「一護・・・」
「何でいきなり走ってんだよお前」
「何で来た・・・の?」
「何でって・・・理由がなきゃ会いに来ちゃダメなのかよ」
「今まで連絡もなかった・・・のに」
「あー・・・色々忙しくてさ。悪かった」
「知らないコと一緒にいた・・・」
「知らないコ?あぁ・・・ルキ・・・朽木の事か?」
「二週間前もいた・・・」
「学校一緒だからな。いるだろ」
「一護が・・・知らない人みたいだった・・・の」
「名前?」
「一護の隣にいるのは私じゃないと嫌なの・・・」


涙が出た。ずっと一護に会いたかった。会って色々話がしたかった。


「・・・一護?」


泣いている私を一護は自分の方へ引き寄せ私を抱きしめた。
差していた傘が手から落ちる。


「・・・ごめん」
「一護・・・」
「不安にさせてごめん・・・」


降ってくる雨が冷たくて、でも一護の抱きしめる手は暖かくて、この時だけは不安は嘘の様に消えた。


一護、お願い私を置いていかないでね。
誰も教えてくれないこの気持ちの解決方法を一護だけは教えてくれるから。









だから、もう少しだけこのままで。
ぎゅっと離さないでいて。
心が晴れるまで。













END













遅くなってすみませんでした・・・!参加させて頂きありがとう御座いました!
変な話でごめんなさい。